今回のブログは人間が出す曖昧な指示と、それを汲み取ってくれないAIがテーマのつもりですが、まず最初に少しだけスタートレックの話をさせてください。
日本では過去に「宇宙大作戦」という名前で放映されていた時期もありましたが、アメリカのSFドラマ「スタートレック」では「宇宙、そこは最後のフロンティア」というセリフからドラマが始まります。
1492年にイタリア人探検家のクリストファー・コロンブスがバハマ諸島に到達して、新大陸を発見した大航海時代を経て、地球上に人類未踏の地はなくなりました。地球に閉じ込められた人類にとって「宇宙」は最後の「フロンティア(開拓地)」なのかもしれません。
そんな人類最後のフロンティアを旅するスタートレックには、ドラえもんの「どこでもドア」や「タケコプター」などと同じ頻度で転送装置やレプリケーター、光子魚雷が登場します。
レプリケーターとは超高性能な3Dプリンターみたいな装置
タイトルにもある「レプリケーター」とはスタートレックに登場する架空の装置です。スタートレックに登場する転送装置の技術力の応用とされ、利用者からの指示に合わせて、瞬時に分子から再物質化します。
少しでも分かりやすく言うなら、数秒で生成する3Dプリンターのような感じですが、ドラえもんのひみつ道具でいうと「グルメテーブルかけ」や「フエルミラー」を想像すると分かりやすいかもしれません。
レプリケーターは「新スタートレック」で登場した気がしますが、1987年に放映が始まった「新スタートレック」は24世紀が舞台です。そのため、2026年時点で技術的に実現不可能な「レプリケーター」の話をしたところで、完全に僕の妄想の話になりかねません。
とはいえ、ここまで書いたのに急に現実的なことを考えても話が進まないので「僕が考えるレプリケーター」で話を進めたいと思います。
エンタープライズ号に内蔵されたコンピュータは、私たちが利用している、いわゆるフォン・ノイマン型コンピュータではなく、船内の全てのシステムを統括する中枢システムのようなもので、音声でのやり取りが可能です。
新スタートレックでは、ピカード艦長は頻繁にコンピュータに「Computer, Tea, Earl Grey, Hot.(ホットのアールグレイを1つ)」と指示を出し、レプリケーターで紅茶を物質化しています。
食料品の生成に特化した装置もある
作品内ではレプリケーターとは別に、「フードディスペンサー」という食料品のみの物質化に特化した装置が登場します。
こちらは、レプリケーターに比べると安全設計が簡易という設定のようで、レシピの設計データが圧縮して保管されているというような話が作品内に登場します。そのため、フードディスペンサーで物質化した料理は味が落ちるようです。
ただ、レプリケーターは食料品だけではなく様々なものが物質化できるため、再現度が高く設定されているはずなのに、ピカード艦長を含めて、エンタープライズ号の乗組員たちはレプリケーターで物質化した料理をあまり美味しいと感じていない節があります。
「スタートレック(宇宙大作戦)」の放映が始まった1960年代は「大量生産・大量消費」時代に入り始めており、「新スタートレック」の放映が始まった1980年代後半は、そのピークを迎えています。
この頃になると、現代ほどではなくても、コストパフォーマンス(コスパ)やタイムパフォーマンス(タイパ)が意識され始めたのではないかと感じています。
作品の製作側には、指示を出せばすぐに形にしてくれるレプリケーターは、「じっくり時間をかけて作った大切さ」へのアンチテーゼとしての意図があったかもしれません。
ただ、僕はそんなことよりも、ピカード艦長が言う「Computer, Tea, Earl Grey, Hot.」があまりにも、私たちがAIに指示するプロンプトに似ていることが気になっています。
ピカード艦長は細かく伝えていない
ピカード艦長はコンピュータに茶葉の種類、濃さ、温度、カップの大きさ、ミルクや砂糖の有無などは一切伝えずに「温かいアールグレイを1つ」とだけ伝えています。ですが、その指示の内側には、その時の気分などの膨大な非言語データという暗黙知が含まれているはずです。
24世紀のコンピュータは利用者の脳波や雰囲気を感じ取り判断できるのかもしれませんが、人間同士の会話でも「言ってくれなきゃ分からないよ」と言い合いになることがあるので、時代がどんなに進んでも、言ってないことは伝わらないと考えています。
これと同じことが、AIでも起きている気がしています。AIにイラストを描いてもらおうと指示を出す際に、「可愛い動物のイラストを賑やかな感じで描いて」とだけ伝えたとしても、利用者の頭のなかには、動物の種類、色味、構図などイラストのなんとなくのイメージがあるはずです。
しかし、AIはそういう暗黙知を理解していない、または学習で得た平均的で均質的な暗黙知によって生成している可能性が考えられます。
それによって、ピカード艦長が「レプリケーターが淹れた紅茶は美味しくない」と感じるように、生成されたイラストを見て「なんか違う」「思い通りのものを生成してくれない」と不満しか浮かんでこないのではないかと考えました。
本来であれば、時間をかけて淹れた紅茶なら、淹れるまでの手間暇や「もうすぐ飲めるぞ」という期待感などが美味しさに含まれます。イラストにしても、何時間もかけて、何日もかけて描いたイラストは、多少構図がおかしいとしても愛おしく感じるはずです。
ただ、文句を言いつつもピカード艦長が紅茶を飲むように、AIが生成した希望通りではないイラストに不満を感じながらも「数秒でできたし、まぁこれでもいいか」と無意識に妥協している部分があるように感じています。
ではここで、1つの疑問として「徹底的に情報を詰め込んでAIに指示を出したら希望通りのイラストを描いてくれるのでは?」も考えてみたいと思います。
AIに「可愛い動物のイラストを賑やかな感じで描いて」と伝えるよりも、
「風船やガーランドで飾り付けられた森の広場で、動物たちが音楽会を開いています。主役は指揮棒を振る笑顔のウサギで、その周りをリスや小鳥が楽しそうに飛び回っています。絵本のような温かみのある水彩画風のタッチで、パステルカラーを基調とした明るくハッピーな雰囲気で描いてください」
と「行動」「構図」「背景」「環境」「画風」「質感」「色彩」を詳細に伝えれば、イメージに近いイラストが生成される可能性が高まります。
ただ、それにより、AIは「共同制作者」から「出力装置」に変わり、AIが確率論で紡ぎ出す「偶然の産物(セレンディピティ)」が失われます。
レプリケーターが生み出した分子構造にムラがなく均質的なはずの紅茶を美味しくないと感じるように、伝えた情報が詰め込まれたイラストを見ると人間はなぜか「退屈さ」を感じてしまうような気がしています。
そして、生成されたイラストをもとに、AIに「ウサギを少しだけ下に配置して」と伝えて、さっきとは全く異なる構図のイラストを生成するAIにイラッとするはずです。
効率化やタイパの先にある妥協
結局のところ、レプリケーターにしても、AIにしても、自分のイメージに近いものを生成させるには時間をかけて指示を考えなければいけません。しかし、多くの方にとってのAIの使い方が、作業の効率化やタイパであるなら、指示の内容に時間をかけていたら本末転倒です。
思い出してみると、ピカード艦長がレプリケーターに紅茶を頼むときは、艦長日誌を書く、資料を読むなどの何かしらの作業をするときが多かったような気がします。
だから、すぐにでも作業に取り掛かりたいピカード艦長は美味しくないアールグレイを飲み、すぐにでもSNSに投稿をしたい私たちは、希望通りではないイラストを受け入れているのかもしれません。
ところで、ADHDを持つ僕はというと…
これは手を動かしてものを作る人間の悪い癖のような気もするのですが、AIと30分間やり取りをしてイメージに近いものができたとしても、イメージと少しでも違うのなら、6時間かけて自分で作ったほうが良いと考えがちになります。
僕はAIの存在を毛嫌いしていません。むしろ、毎日のように話しかけて、僕の脳から溢れ出る澱みをAIにぶつけることで濾過して、ワーキングメモリを解放しています。
ただ、仕事としての制作作業だけは、決してAIに頼むことはありません。
「自分が楽しんでやっている作業をAIに取られたくない」という思いもありますが、それ以上に、AIに制作作業を奪われるという恐怖よりも、自らAIに制作作業を明け渡してしまうのではないかという恐怖が勝るためです。
「AIに作業を頼めない心理」では、このあたりの気持ちを少し掘り下げて触れていますので、もしお時間が許すのであれば、ご一読いただけると幸いです。
最後に
僕は、「トレッキー(Trekkie)」と呼ばれるような熱心なスタートレックファンではありませんが、ドラマシリーズの
- 宇宙大作戦
- 新スタートレック
- スタートレック:ディープ・スペース・ナイン
- スタートレック:ヴォイジャー
は、何話かの見落としはあるかもしれませんが、ほぼ全話観ています。
映画は、2002年に公開された「ネメシス / S.T.X」まで観ていますが、特に好きなのは1979年に公開された「ボイジャー6号(ヴィジャー)」が登場する「スタートレック」と、1998年に公開された「スタートレック 叛乱」です。
まさか、あの頃、ワクワクして観ていたSF冒険活劇が、僕にこんなことを考える未来を与えるとは思いもしませんでしたが…







