SNSなどが登場する前は、「事業をする場合は自社のWebサイトが必要」と考えられていましたが、現在では、SNS、ウェブログなどのメディアプラットフォームなど簡単に情報発信ができるWebサービスがあり、しかも、その多くが基本的に無料で利用できるため、「Webサイトは必要なのか?」と感じることがあると思います。
まず、Webサイトを所有せず事業を行う利点を考えてみたいと思います。
Webサイトを所有しない利点
コストの削減
Webサイトを所有しない場合、Webサイトの制作費用、運用費用、ドメイン、Webサーバなどの利用費用などが節約できます。事業を始めたばかりで投資費用を抑えたい場合、小規模ビジネスのため日々の費用を抑えたい場合に非常に有利です。
セキュリティの不安が減る
WordPressなどのCMSを利用してWebサイトを運営していると、常にセキュリティリスクに晒された状態になり、定期的なセキュリティアップデートが必要になります。Webサイトを所有しないことで、情報漏洩、サイバー攻撃などのリスクを減らすことが可能になります。厳格な情報保護が求められる事業では利点になり得ます。
また、Webサイトを介して、営業メール、迷惑メールが送信されないため、本来必要なメールを見落とすなどの問題を防ぐことができます。
対面での人間関係の構築
Webサイトを介した事業では、場合によっては、問い合わせから納品まで、1度も顔を合わせないまま仕事が進むことがあります。
それにより、メールの文面での説明による認識、解釈の差異により、依頼者の意図通りに進まない可能性があります。直接的な対面でのやり取りにより、コミュニケーションを通じて、事実に基づいた会話、価値観の共有など信頼性の高い顧客関係の構築につながる場合があります。
では、次にWebサイトを所有せず、SNSで広報活動を行って事業を行う利点を考えてみたいと思います。
SNSのみで広報活動を行う利点
低コストでの運用が可能
基本的に、SNSはスマートフォン1台あれば無料で利用することができ、初期投資は非常に低く抑えられます。初期投資を抑えることは、新規で事業を始めた場合には非常に有利です。
即時性と双方向性が期待できる
SNSはリアルタイムでの情報発信を可能にし、ユーザ、顧客からの反応を受け取ることができます。SNSの使い方によっては、効果的なキャンペーンやタイムセールなどを実施することが可能になります。
ターゲット層への精度の高い訴求
フォロワーの多くは、事業、ブランド、プロジェクトへのファンであると想定でき、情報を届けたい相手に効率よく届けられる場合があります。
また、SNSでは、似たようなことに興味、関心を持つユーザ同士でコミュニティが形成されていることがあり、フォロワーの興味、関心に基づいて情報発信をすることで、コメント、シェア、リポストなどの機能によって、ファンのコミュニティを育てることが可能になります。
ブランドの個性(ブランドパーソナリティ)が強化できる
基本的に、Webサイトは一方的に情報を発信する媒体ですが、SNSの双方向性、SNSの担当者の性格などにより、フォロワーとより親密なやり取りをすることが可能になります。これにより、マーケティングメッセージだけでは表現しにくい、親しみやすさ、親密さを演出することが可能になります。
これらのことから、事業内容によっては、Webサイトを所有しなくても問題なさそうですが、問題点がないわけではありません。
では、続いてWebサイトを所有せず事業を行う問題点を考えてみたいと思います。
Webサイトを所有しない問題点
オンラインでの集客の難しさ
2024年時点において、消費者が何かをする際は「まず検索をして調べる」がある程度一般化しており、Webサイトがない企業、事業者は「存在していない」と受け取られる可能性があります。また、消費者行動として「何かをする際はまず検索をして調べる」を前提とした場合、Webサイトがない時点で、検索サイトからの流入が期待できません。
情報発信が制限される
消費者が製品を購入しようと考えた場合、製品の詳細だけではなく、企業の歴史、使命などから、製品に対する思いを感じ取る場合がありますが、Webサイトがない場合、それらを伝えることができません。また、購入した製品に問題が発生した場合、消費者は販売元に連絡することができず、製品元に対する信頼が低下する可能性があります。
スタッフの負担が増加する可能性
Webサイトに「よくある質問」が掲載されている場合、消費者は各項目を確認することが可能ですが、Webサイトがない場合、電話での問い合わせる必要があり、スタッフは同じような質問の電話に対応し続ける必要があります。これにより、本来の業務が圧迫される可能性があります。
また、最近では電話でのやり取りを苦手としている方が増えていると言われ、電話での問い合わせを忌避され、機会損失につながる可能性があります。
では、次にWebサイトを所有せず、SNSで広報活動を行って事業を行う問題点を考えてみたいと思います。
SNSのみで広報活動を行う問題点
認知度の限界
SNSは即時性が高いため、タイムラインが常に更新されており、発信した情報がユーザの目に止まる前に見えなくなる特性があります。それにより、発信した情報が届けたい相手に届かない可能性があります。また、投稿できる文字数の制限などにより、正確な情報が伝わらない可能性があります。
情報の信頼性の低下
本来、企業のWebサイトは「公式情報源」として信頼性が高いと判断されますが、SNSは、なりすまし行為も容易なため、情報の発信源として信頼性が問われる可能性があります。また、情報の信頼性の向上を目的に公式認証などのバッジを付与するため、高額な費用が発生する可能性があります。
アルゴリズムの変更
SNSプラットフォームでは定期的にアルゴリズムが変更され、投稿の表示順位や表示範囲に影響が発生している可能性がありますが、ユーザはその全てを知る由がありません。そのため、気がつかない間に投稿が見れなくなっていたり、広告効果が低下していることがあります。
また、SNSプラットフォームの仕様の変更、サービスの終了に伴い、これまでに投稿していた情報が簡単に消失する可能性があります。
SNSアカウントが乗っ取られる危険性
SNSアカウントを乗っ取られないために「二段階認証を有効にする」「怪しいリンクやDMなどに反応しない」「OS、アプリのセキュリティアップデートを行う」などの対策が必要ですが、もし、SNSアカウントが乗っ取られ、Webサイトを所有していない場合、フォロワーや顧客に対して警告、通知する手段が限られます。
また、SNSアカウントが乗っ取られた場合、アカウントの情報、アカウントに紐付けされた情報、それまでのフォロワーや顧客とのDMの内容なども含めて、さまざまな情報が漏洩すると考えるのが自然です。SNSのみで広報活動を行う場合は、高いセキュリティ意識を持つことが重要になります。
これらのことを踏まえると「Webサイトは必要がない」「SNSは必要がない」ではなく、WebサイトにはWebサイトの良さ、SNSにはSNSの良さがあり、それぞれの特性をしっかり理解して、利用していくことが大切だと感じています。
また、昨今の消費者行動のデジタル化を踏まえると、Webサイトは必要だと考えます。
Webサイト制作を主業務とする立場として考えるなら、レビューサイトが隆盛を極めていた頃は「飲食店や美容室など特定の業種の情報掲載に特化したWebサービスを使う方が、Webサイトを制作、管理するコストやリスクを軽減できるのではないか」と考えていた時期がありました。また、SNSが登場した際も同じようなことを考えていました。
インターネットの利用が一般的になり始めた2000年代には、インターネットには「集合知」が期待されていた側面がありましたが、インターネットの登場から20年が経過し、SNSでの炎上、レビューサイトでは組織的な不正な書き込みによって口コミの信用性が度々問題になっており、企業側も対応に苦慮しています。
また、特定のWebサービスに依存すると、特定のWebサービスが閲覧できないなどの不具合が発生した場合に情報発信ができない問題が発生するため、利便性、リスクなどを踏まえ、特定のサービスに依存しすぎない多角的な情報発信が求められます。
では、Webサイトを制作するには何が必要か、考えてみたいと思います。
Webサイトを制作する
Webサイトを制作するには、以下の流れが想定できます。
Webサイトを制作する目的
「何のために制作するのか?」「誰が見せたいのか?」など、Webサイトを制作する目的を明確にします。
事業内容、求人募集、ウェブログ、ポートフォリオ、オンラインショップのどれを制作したいのか、また、ターゲット層の年齢、性別、興味、技術レベルなどによって、デザインや機能が大きく異なります。
Webサイトの設計
- サイトマップの検討: どのようなページが必要なのか、それらのページをどのようにリンクするかなどを考えます。
- ワイヤーフレームの検討: 各ページのレイアウトを考えます。各ページの「動線」「導線」が想定しながら、ナビゲーションの位置、コンテンツの掲載方法などを考えます。
ドメイン、Webサーバの検討
Webサイトを公開するには、Webサイトの置き場としてWebサーバ(ホスティング)の契約、Webサイトの住所として、ドメインの取得、契約が必要になります。
ドメインを所有していない場合は、ドメインを取得します。企業名、ブランド名、プロジェクト名などの任意の文字列で取得されたドメインは「独自ドメイン」とも呼ばれます。
Webサーバのサービスによっては、ドメインを取得しなくても、Webサイトが公開できる場合がありますが、ドメインは一意で同一のドメインは取得できないため、独自ドメインを利用した方が、ブランドの認知度、信頼性の向上が期待できます。
コンテンツの制作
文書、写真、動画などのWebサイトに掲載する素材を準備します。Webサイトの多くは検索サイトからアクセスによって、閲覧者に訴求されるため、検索サイト最適化(SEO)を意識した文章を書く必要があります。ただ、検索サイト最適化を気にするあまり、検索サイトの挙動に意識が行きがちですが、Webサイトは顧客、消費者に訴求するためのものであることを忘れないようにしましょう。
Webサイトを制作、開発
Webサイトは、基本的に、HTMLタグ、CSS、JavaScriptによって構成されており、ゼロから制作するにはある程度の知識と経験が必要になります。WordPressなどのCMSを利用する場合、無償、有償問わず高性能テンプレートが提供されており、専門的な知識がなくても、ある程度本格的なWebサイトを構築することが可能です。
また、「Webサイトを制作する目的」で閲覧者として特定の年齢、性別を想定していても、Webサイトは誰が見るか分かりません。そのため、誰でも見やすいデザインを心がける必要があります。
なお、現在は、PCでの閲覧より、スマートフォンでの閲覧の方が多い場合があるため、様々なデバイス(端末)に応じてレイアウトが調整される、レスポンシブデザインを考慮する必要があります。
Webサイトを確認する
Mozilla Firefox、Google Chrome、Microsoft Edgeなど、複数のブラウザでWebサイトが正常に表示、機能しているかを確認します。この作業は「クロスブラウザテスト」とも呼ばれます。
状況によっては、ユーザに実際に操作してもらい、Webサイトの可読性(Readability)、視認性(Visibility)、操作性(Usability)、利便性(Accessibility)などのフィードバックを集める必要があります。
Webサイトを公開する
完成したWebサイトを誰でも見れるように、Webサイトを公開します。
Webサイトの検討を始めてから公開までに、かなりの日数を要するため、Webサイトの公開をゴールと感じる場合がありますが、Webサイトの公開後は運用として、定期的な更新作業、セキュリティチェック、メンテナンスが必要になります。
また、WordPressなどのCMSを利用している場合は、定期的にセキュリティアップデート、バックアップを取ることを忘れてはいけません。
以上のことから、自社でWebサイトを制作することは可能ですが、Webサイトを制作するにはそれなりの技術、手間、時間が必要になります。そのため、Webサイトの制作を専門に行っている制作会社、個人事業主に依頼するのも戦略の1つだと考えます。
まとめ
WebサイトとSNSが持つ特性を理解し、両者をうまく活用することが重要になると考えます。
Webサイトの重要性
- 信頼性と公式情報源としての役割
- 検索サイトからの流入、集客
- 長期的に情報を保存、管理する機能
- 詳細な情報提供
SNSの利点
- 低コストでの運用が可能
- 即時性と双方向性による顧客とのエンゲージメント
- ターゲット層への直接的なアプローチ
- ブランドパーソナリティの強化
しかし、どちらか一方だけに依存するのはリスクを孕んでもいるため、WebサイトとSNSを統合的に利用する戦略が理想的です。
具体的には、Webサイトは、公式としての情報発信、検索サイト最適化、長期的なブランド構築に利用、SNSはリアルタイムの情報発信、顧客との直接的なコミュニケーション、キャンペーンの実施などに活用が向いていると感じています。
それぞれの特性を理解したデジタル戦略を行うことで、効率的に情報を発信し、信頼性を保ちつつ、現代の消費者行動に適応することが可能になります。