僕は2009年に家族で大阪府大阪市から山口県山口市に引っ越しをしました。

コロナ禍以降、都市部の公共交通機関では大きな変化があったと聞きますが、僕が大阪での生活をしていた2009年頃は、数分に1本の間隔で電車やバスが利用でき、22時に居酒屋に飲みに行っても終電まで2時間は友人たちとワイワイとお酒が飲めました。

そんな環境から、引っ越し後は、電車は1時間に1本、自宅の最寄駅では22時前には終電がなくなる環境に変わりました。

しかも、山口県は車社会ですが、幼少期から公共交通機関を中心に生活をしていた僕にとって車社会は未知の世界で、急に外出する可能性を考えるとお酒を飲むタイミングに悩むこともしばしばで、気が付くと、年末年始に唇を濡らす程度のお酒しか飲まなくなりました。

僕が都市部から田舎に引っ越しをしてきた話はこれぐらいにして、本題の田舎の草刈りは開始時刻に始まらない話を始めたいと思います。

田舎は行事が多い

都会や田舎に関係なく、それなりの数の行事はあると思います。また、僕は在宅の個人事業主のため自宅にいることが多く、何かと声がかけられやすい環境にいます。しかし、それらを加味しても田舎は行事が多いのです。

コミュニティセンター(公民館)の清掃、草刈り、海岸清掃、運動会や盆踊りなどの地域行事の準備や片付け、自治会やPTAの役員、「今日のこの会議はどの役の会議だっけ?」と悩むほどの様々な会議への参加など枚挙にいとまがありません。

PTAの行事や役員会議は、開始時刻に始まるのですが、問題は自治会の行事です。

自治会から各世帯に配布された紙には「草刈りは日曜日の8時から開始予定」と、80代の高齢者でも読めるぐらいの大きさで書かれているのに、8時に集合場所に行くと、草刈りがほぼ終わっていることが何度もありました。

なぜ時間通りに始まらないのか

コロナ禍前に、何人かのご老体に「草刈りに限らずなぜ予定時刻より早く始めてしまうのか?」と確認したことがあります。彼らの言い分はみんな揃いも揃って同じような内容でした。

話をまとめると…

7時ぐらいに起きようとしても4時には目が覚めてしまうので、1時間ぐらいは布団の中でごろごろして過ごすけど、やることもないので5時前には起きて朝食を食べ、草刈りに行く準備をしてしまう―

準備ができてしまったので、暇だから6時半ぐらいに集合場所に行ってみると既に10人ぐらいが集まっているので「それならもう草刈りをやっちゃうか」と7時前には草刈りを始めてしまう―

気が付くと開始時刻の頃には、沿道沿いの雑草はあらかた刈り終わっている―

大体こんな感じでした。

お茶だけもらって帰る

僕は8時に開始予定の草刈りの場合、7時に起きて朝食を食べ、軍手やノコギリ、鎌などを準備します。しかし、朝食を食べている7時半には外から草刈り機が雑草をなぎ倒す音が聞こえてきます。

「あいつら…もう始めとるな…」と感じながら食パンを食べ、コーヒーを飲んでのんびりと過ごします。いつものことなので、僕に慌てる様子は微塵もありません。長袖、長ズボンに着替えて、8時5分に颯爽と家を出ます。そして、草刈りはほぼ終わっています。

開始時刻前に勝手に始めているのに、開始時刻に集合場所に行くと「遅い!もっと早く来い!」とむちゃくちゃなことを言い出す方がいると聞きますが、幸い、僕の地区のご老体は「ごめんごめん、せっかく来てもらったのにもう終わってしまった。申し訳ないのでお茶だけ持っていってくれ」と僕は草刈りをほぼせずにお茶だけご相伴にあずかります。

とはいえ、週末に早起きをして、準備を整え集合場所に向かったのに、草刈りをせずにお茶だけもらうことに些少でも罪悪感のようなものがないわけではありません。

いい加減な僕でもそんなことを感じるのだから、参加者の中には日曜日はもっとゆっくり寝ていたいのに、地区の草刈りのために早起きをして開始時刻に集合場所に来てみたら、すでに草刈りが終わっているとしたら、それなりに不快に感じているかもしれません。

本来、開始時刻は依頼者と参加者の「約束事」であり、7時に集合場所に行ったらみんながいたから草刈りを始めたというのであれば、事前に決められた「約束事」を反故にしたことに変わりはありません。

とても小さな出来事かもしれませんが、そういう小さな裏切りの積み重ねが地域コミュニティへの信頼喪失に繋がりかねないと感じています。

結局は人間関係の問題

そもそも僕が草刈り機の動く音が聞こえる中、のんびりと食パンを食べ、開始時刻の8時を過ぎた8時5分に自宅を出発しているのは、ご老体との長年のいい加減な関係性に他なりません。

もう少し詳しくいうと、僕は山口県に引っ越し後、10年以上、常に何かしらの自治会の役員を引き受けてきました。また、県外からの移住者でありながら2年間の自治会長も経験済みです。そのため、地区内の「よく動くご老体」はある程度熟知しており、またご老体も「あいつは時間通りに来ない」と理解してくれています。

僕の考えや行動はそういった関係性によって成り立っていますが、全ての区民が同じというわけではないため、僕が自治会長になった際に「開始時刻だけは厳守する」というルールの徹底に力を入れました。

開始時刻だけは守ろう

まず、自治会長の立場として「自治会から配布された資料に『草刈りは日曜日の8時から開始予定』と書かれているのであれば、それは明文化された約束事なので厳守する必要がある」と何度も言い続けました。

全てのご老体に賛同を得られたわけではなく「早く始めれば早く終わる。その方がみんなも楽だ」という意見もチラホラと聞こえてきました。

ただ、ご老体の中には開始時刻を無視する状況を快く思っていなかった方も少なからずおり、数人のご老体が「俺たちより若い自治会長の言うことは聞こう」と後押ししてくれたことで徐々に開始時刻を守る雰囲気が生まれてきました。

もちろん、僕としても様々な考えの方がいる中で「何が何でも開始時刻を厳守するべきだ」とは考えておらず、7時から始めたい方は始めても問題はないとは思うものの、「あくまでも草刈りの開始時刻は8時から」ということが大切だと考えています。

早い時間から草刈りを始めるご老体の中には「9時から別の役員会議があるので7時から8時の間に刈っておく」という場合もあるため、全てのご老体が自分の都合だけで行動しているわけではないだろうと受け止めるのも大切です。

コロナ禍で状況が一変した

僕が暮らす地区の自治会長の任期は2年間と決まっており、僕が自治会長に就任したのは2019年4月でした。過去の先輩方に倣い、4月に自治会総会や地区運動会、5月に溝普請と草刈り、8月に慰霊祭、11月に粗大ごみの回収と、決められたルールで役目をこなすだけのはずでした。

それが、2020年1月に始まったコロナ禍によって状況が一変しました。

まず、地区の行事の多くは準備を含めて数多くのご老体によって支えられていましたが、コロナ禍によって「密を避ける」ことが最重要事項になり、行事や役員会議は全て中止か延期にせざるを得なくなりました。

ただ、2020年4月に自治会総会を開催する必要はありましたが、公民館に集まることができないため、自治会にとって初めての書面決議を実施することになりましたが、普段は頼りになる先輩方もこの時ばかりは頼ることはできませんでした。

なにより、新型コロナウィルスに感染すればすぐに死んでしまうような後期高齢者を全力で守るためにも「自分は無症状の感染者である」という気持ちで最大限に注意を払って行動していました。

そこで、書面決議を実施するために、普段ならもらってもほとんど開くことがない「自治会活動の手引」を熟読し、分からない部分は役所に何度も確認に行きました。

そして、見様見真似で作った書面決議書を、法的に問題がないか役所で確認してもらい、全戸分を印刷して、それぞれの地区の区長に配布を依頼しました。

例年であれば、自治会総会の実施に向けて役員会議やご老体と何度も話し合いを重ねますが、この時はほぼ僕1人で対応し、どうしても協力が必要な場合は個別にご老体宅に相談に行くようにしていました。

年の離れた友達のような存在

「ご老体」とは呼ぶものの、彼らの多くは僕の父親より少し年上ぐらいの年齢であり、祖父というよりは父親に近い存在です。

しかし、顔を合わせると、

「そんなことをしてたらすぐに死にますよ」
「まだ死なんよ!勝手に殺すな!」

とふざけ合いながら、あるご老体が退院したと聞けば、ご老体が好きな少々値が張る甘い食パンを届けたりしています。友達と呼ぶには年の差がありすぎて、だからといって他人でもない何とも形容しがたい不思議な関係性です。

そして僕は自治会で何かをする際は「この人を味方にしておけば多くの方が賛同してくれる」というご老体にまず相談に行きます。そしてなにより、地区の行事を円滑に進めるため、誰が草刈り機や軽トラックを持っているかしっかりと把握済みです。

コロナ禍を経てご老体の考えにも変化が生まれた

2020年からそれまで当たり前だった自治会の行事が中止になり、2023年まで何もしない3年間を過ごし、ご老体が年齢を重ねたことに加えて、地区行事をサボるということを覚えたことで、「参加できる人だけが参加すれば良い」「開始時刻にみんなで始めたほうが早く終わる」と考えるご老体が増えたように感じています。

ひねくれた考え方をすれば、コロナ禍の間に僕も含めてみんな歳を重ね、1人で勝手に動く体力がなくなったのだと思います。

コロナ禍の数年間を耐える中で、ご老体の多くは70代後半から、80代に突入しましたが、今もなお地区の行事の手伝いに駆り出されています。

また、今年は僕の暮らす地区が「阿知須浦まつり・花火大会」と同時に開催される十七夜祭を担当することになり、準備期間から多くのご老体が駆り出されていました。

とはいえ、準備期間中は船頭だらけで山車が空を飛ぶのではないかという場面も数多くありましたが、半年を超える準備期間を経て、十七夜祭当日は怪我人を出すことなく無事に終えることができました。

最後に

「開始時刻を厳守しなければいけない」「早く始めれば早く終わる」のどちらの言い分も理解できます。しかし、地域コミュニティは区民の自助と共助で成り立っています。

全ての区民が納得できる形が望ましいですが、それが難しいとしても、一部の方が強い不満を感じて地域コミュニティから離れていくほうが大きな問題だと考えています。

今、僕が暮らす地区では、草刈りは概ね開始時刻に始まります。

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2004年よりWebサイト制作に携わり、2010年から山口県山口市で、Webサイトの制作や更新を専門とする個人事業主として制作業務を行なっております。

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