僕は2004年にWebサイトの制作をする小さなデザイン事務所でアルバイトとして働き始め、2005年に正社員になりました。そして、2009年に大阪府から山口県への引っ越しをしました。

当時の地方都市はデザイン業の求人がほとんどありませんでしたが、自分にはWebサイトを制作する以外のことはできそうになく、まだ、20代だった僕は勢いだけで2010年にWebサイト制作を専門にする個人事業主(Webデザイナー)になりました。

2025年にAIやノーコードによって自分の立場が脅かされるともつゆ知らず…

Webサイトを制作する個人事業主にとって、Webサイトの制作作業と更新作業が主な収入源になりますが、2010年頃までには企業の規模に問わず、多くの企業が自社サイトを所有しているような状況でした。

そのため、本来であれば、年々案件が減っていくようにも見えますが、Webサイトにはデザインのトレンドや技術の変化があり、それらがWebサイトの耐用年数として機能しています。

HTMLタグやCSSの変化、Internet Explorer(IE)の利用停止、スマートフォンの登場によるレスポンシブデザインへの対応など、数年おきに出現する変化に対応していくことで、日々の収入を確保しています。

それにしても1人で仕事をしている個人事業主はやることがたくさんあります。

日常的に行っている業務

といっても、日常的に次々とやってくる作業を流れ作業のように対応しているので、実際に日々、どんな作業してるのか僕自身も把握できていない部分があります。

そこで、Webサイトの制作依頼を受けてから納品するまでの流れを参考に日々の業務をなんとなく整理してみたいと思います。

Webサイトの制作といえば、一般的にWebサイトのデザイン案の制作して、HTMLコーディング作業、CMSへの実装などを想像されると思いますが、実は細々とした作業があります。

Webサイトの制作を受注するとデザイン案の制作に取り掛かりますが、写真や文章などの資料を提供いただける場合もあれば、こちらでデザイン用のダミー文章を準備し、写真素材を選定する場合もあります。

今では、それっぽいダミー文章はAIで生成できますが、写真素材は加工作業も想定して選定する必要があり、写真素材の準備だけで数日を要する場合があります。

その間にも打ち合わせやメールでのやり取り、依頼者のドメインやWebサーバの契約状況、Webサーバの仕様の確認、現状のWebサイトの調査と制作作業以外も多数発生します。

依頼者がドメインやWebサーバの契約状況が把握できていない場合は、確認作業の代行やドメインの移管作業なども発生します。

事務作業が無数にある

個人事業主は給料と引き換えに自由を得るという等価交換の世界で生きているため、同僚もおらず、部下もいません。

そのため、制作作業だけではなく、請求書の発送や諸経費の管理、クレジットカードの引き落とし日に銀行口座に入金しておくなどの経理作業も発生します。そして、年度末にやってくる確定申告というラスボスに備えなくてはいけません。

ADHDと共に過ごしている」でも触れましたが、僕はADHDの特性によりATMの操作が得意ではありません。

そんな僕の状況を理解して仕事での経理作業は妻が全て対応してくれているため、僕は制作作業に集中することができています。そもそも、妻がいなければ僕は個人事業主にはなっていなかっただろうし、もし、妻に何かあれば僕は即座に廃業する覚悟で仕事に取り組んでいます。

制作作業以外は避けがちだった

Webサーバの仕様やドメインの確認作業、写真の選定作業、事務作業は制作作業を進めるために重要な作業であり、れっきとした仕事なのですが、僕の中で制作作業をせずに1日が終わると「今日は何もしなかった」という気持ちが強くなります。

Webサーバの仕様やドメインの確認作業は、制作作業に直結するため、制作案件を依頼されるとすぐに確認しますが、良くないことと分かっていても事務作業はどうしても後回しにする癖がありました。

真面目に頑張ればそれなりに安定すると思っていた

少し本題から逸れますが、100万円の売り上げがあった翌月は5万円の売り上げしかないのは、よく聞く「個人事業主あるある」として仲間内でもよくネタになっています。

個人事業主になり15年が経過した今では、「なんて甘い考えだっただろうか」と感じますが、個人事業主になりたての頃、真面目に仕事をしていれば、10年が過ぎた頃にはそれなりに安定すると考えていました。

この15年間の間に、クライアントさんの死亡や廃業を経験し、コロナ禍という未曾有の状況ではデザイン業がいかに衣食住に直結しない贅沢業だったかと痛感させられました。

これから個人事業主になろうと考えている方は本業に加えて副業や資産投資などを視野に入れた複数の収入源の確保、仕事が切れても数カ月は生活ができる貯蓄などの準備を強くお勧めします。

それが僕にはできなかった

とはいえ、ADHDのため広く浅い対応ができず、Webサイトの制作しかできない僕にとって本業以外の収入源の確保はなかなか難しく、仮に資産投資に手を出せば、株価ばかりが気になり仕事に手がつかなくなったりすることが容易に想像できます。

また「飲み会とか勉強会とか」でも触れましたが、長男の誕生とほぼ同時に個人事業主になったため、子育てと制作作業を優先するために、勉強会や異業種交流会への参加を積極的に行っていませんでした。

それにより、長期的に見て、顔見知りが増えず、仕事の幅が広げられなかったように感じています。

田舎の個人事業主という性質

世間一般の個人事業主の方は分かりませんが、僕は田舎の在宅の個人事業主ということもありいつも家にいることで、ことあるごとに近所のご老体がやって来ます。

それだけ聞くとSNSでよく見かける「田舎の闇」のように受け取られかねませんが、会社員の経験しかないご老体に対して、しつこくそれはしつこく「家にいるけど暇じゃない」ことを伝え続けました。

その結果、ご近所のご老体とは比較的良好な関係を続けています。

僕の日々の生活の中でクライアントさんとのやり取りや制作作業の仕事の合間に、近所のご老体からの相談や地区役員、PTA役員として様々な会議や行事に参加しています。

また、僕が苦手なことは妻や友人に手伝ってもらうことで乗り越えていますが、役員を通して知り合った方に丸投げをすることで地域の問題に対応できている部分もあります。

ただ、これらの活動は僕の収入に直結するわけではなく、また地域貢献活動に力を入れすぎると仕事に取り組む時間が減るため非常に難しい部分がありますが、役員を引き受けることで長期的に見て地域コミュニティの維持につながり、それが巡り巡って自分に返って来ると信じて、僕なりの地域貢献活動として取り組んでいます。

個人事業主のクライアントもまた個人事業主

僕は長年、Webサイトを制作してきましたが、更新作業は依頼者に自発的にしてもらうことで、依頼者に余計な作業費用が発生する事を防ぐという信念で仕事に取り組んできました。

また、日々の更新作業を依頼者がすることで、Webサイトに愛着が生まれ、より良い相乗効果につながると信じていました。しかし、それはただの僕の思い込みでした。

代理店からの制作依頼の場合、納品後のWebサイトの運営や更新の提案は代理店の担当者さんが行うため、あまりしゃしゃり出てはいけないと考え、相談がない限り僕から積極的に提案することはありませんでした。

僕は長年、会社員時代に習得した仕事の進め方を踏襲していましたが、僕のクライアントさんの多くは僕と同じ個人事業主のため、僕と同じように「個人事業主はやることが多い」という事実を完全に失念していました。

僕が制作作業以外の事務作業を雑務と捉えて仕事と考えていないように、僕のクライアントさんの多くもWebサイトの更新作業を仕事と考えていませんでした。

更新しないのにCMSを希望しがち

20年近くWebサイトを制作してきた中で、クライアントさんの多くから、自分たちでWebサイトを更新して、Webサイトの運営費用を抑えたいとの相談がされることがよくありました。

僕自身はそれ自体は経営戦略として何も間違っていないと感じており、クライアントさんの要望に対応して、CMSへの実装、納品後にCMSの使い方の簡単なマニュアル、操作方法の説明を行なっていました。

そして、お知らせは「Webサイトをリニューアルしました」と表示されたまま、数年間放置されるという現実を幾度となく見てきました。MovableTypeやWordPressなどのCMSと呼ばれるシステムが主流になる前は、静的なHTMLファイルで構成されたWebサイトが一般的でした。

静的なHTMLファイルとは、誰がアクセスしても内容が変化しない内容がHTMLファイルで構築されたWebサイトを意味します。反対に動的なWebサイトとは閲覧者やアクセスするたびに掲載内容を変更することが可能になります。

静的なHTMLファイルは閲覧者ごとに掲載内容が変更できないことが欠点になりますが、システムを利用していないため表示速度が速く、Webサイトの移設が容易、また、セキュリティの問題が発生しにくいなどの利点があります。

しかし、更新費用を抑えるために自分たちで更新するからといって、WebサイトをCMSに実装したことが長期的なリスクになりかねません。

システムには脆弱性がつきもの

ブラウザ上でWebサイトの更新作業ができるCMSもシステムであり、システムは必ず脆弱性やバグというリスクを抱えています。

そして、僕が見てきた多くのケースでは、お知らせは「Webサイトをリニューアルしました」と表示されたまま、更新がされることもなく何年間も放置されていることになります。

また、CMSは定期的に脆弱性が発見されるため、アップデートを行う必要がありますが、クライアントさんのWebサイトの多くは脆弱性が放置された状態となっているはずですが、放置しておくと悪意あるプログラムが設置されたり、意図せず攻撃者に加担しかねません。

僕も決して放置しているわけではなく、定期的にCMSのアップデートや情報発信の重要性を伝えていますが、そのほとんどがけんもほろろという感じで、次第に僕も何も言わなくなってしまいます。

そして、次に連絡がある時は「Webサイトが見れなくなったので何とかしてほしい」という状況で、原因調査と解決に時間と作業費用を要することがほとんどです。また、なんとか解決できても、Webサイトは更新されることもなく、また数年間放置されます。

それでもしつこく言い続けると、最後には「ログイン方法が分からない」「パスワードが見つからない」「CMSの更新方法を忘れた」と言われがちです。

今では積極的に提案をしている

クライアントさんがWebサイトの運営費用を抑えたいのは大前提としても、更新されず、CMSのアップデートを放置された状態になる様子は僕としても看過できません。また、Webサイトさえ作っておけば誰かが見てくれる時代は15年以上前に終わっています。

そしてなにより、Webサイトの納品時に事細かく説明をしても、「自分たちのWebサイトなのにGoogle Search Consoleすら見ようとしない」と感じていたことも、時間の経過とともに、「Google Search Consoleを見る時間すらないのかもしれない」と考えるようになりました。

そこで、現在はこちらの意図を理解いただけた場合に限り、Webサイトの保守管理として毎月一定金額をお支払いいただくことで、CMSのアップデートや更新作業の提案を積極的に行っています。

当初はクライアントさんが毎月一定金額を支払うことに抵抗があるのではないかという不安もありましたが、昨今のサブスクリプションの流れもあるのか、提案を快く快諾いただいているように感じています。

クライアントさんの心情を察するなら「それって必要?」「その程度の更新で何かが変わる?」という感じだと思いますが、してもしなくても影響がないのなら「しないよりは良い(Better than nothing)」の気持ちで提案し続けていこうと考えています。

最後に

僕の仕事はAIやノーコードに脅かされているというのに、全く収入にならないPTA役員や自治会役員の作業こそAIに丸投げしたいのに、世の中は思い通りにはいきません。

ノーコードはたしかに便利ですが、CMSと同じようにノーコードサービスのマニュアルを熟読し、使い方を理解して、ある程度使いこなせない限り、思いついたアイディアを自由に表現するのはなかなか難しいのではないかとも感じています。

こればかりは、利用者の適性や好き嫌いが大きく影響する部分のため、誰でも彼でもAIと対話を重ねたり、ノーコードへの学習意欲を高めるのは容易なことではないようにも感じています。

世の中はどんどん便利になっているのに、なかなか思い通りにはいきませんが、それでも周りの人たちに助けられながら、自分にできることを一つずつ積み重ね、今しばらくはできる範囲で色々と抗ってみようと考えています。

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2004年よりWebサイト制作に携わり、2010年から山口県山口市で、Webサイトの制作や更新を専門とする個人事業主として制作業務を行なっております。

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